私はサラリーマン時代、週3回以上は夜飲みに行っていた。仕事上の付き合いの席では、米中対立、中国の海洋権益、ウクライナ、アフガン、ミャンマーなどの地域情勢が話題になることが多かった。しかし、いまは、そのようなテーマではなかなか酒の席も盛り上がらないように感じている。
そもそも、脱サラ後、飲みに行く回数は激減した。コロナ禍ということもあるし、平日夜は外食できない仕事となったことも要因としてあるにせよ、私の意識が変わったことが何より大きい。様々な分野の方々と食事しながら懇談することで勉強できることが多いのは否定しないが、学ぶべきことは無限にあり、そして時間は悲しいほど有限である。夜の空いた3時間をどのように有効に活用すべきか考えると、物を読んだり書いたりする時間に充てるという選択をとるのは至極自然である。
さて、たまに参加する飲み会では、マスク会食という不慣れな形式で意識がいくせいか、ひととおりコロナ感染状況とその社会的・経済的影響がまず話題になる。そして、大型台風・ハリケーンの多発、大寒波、洪水、地震、海底火山噴火など頻発する自然災害のニュースと相俟って、地球環境がおかしくなっていると口々に述べ合うのだ。ただ、どこか他人事感覚で、どうにかしないといけないねえという空虚な結論でこの話題は終わってしまう。これまた酒の席では長続きしない話題なのである。
私は、定期的に、あるグラフをみるようにしている。それは世界人口の推移グラフだ。
ホモ・サピエンスが20万年前にこの惑星に出現してから、定住生活を開始する1万年前というごく最近までの長い期間、人口は、せいぜい500万人以下の一定数を維持していた。人類史の20分の1にすぎない最近だけで1000倍以上に膨れ上がったのであり、しかも紀元1800年頃からのわずか200年という人類史の1000分の1くらいの短期間で10億から80億近くまで8倍になっているという異常な曲線である。例えとして適当ではないかもしれないが、最近よくオミクロン変異株の感染激増を示す曲線をみてぞっとすることがあるが、あれに近い断崖形状の急増曲線である。
適当な個体数として1000万頭以下と言われる種の数がその百倍にまで増えて、しかも地球の生態系のトップとして君臨し、我が物顔に生物・非生物資源の搾取に励めば、この惑星がおかしくなるのは当然であろう。
数年前に「ファクト・フルネス」という本がベストセラーになった。その中で、世界がどんどん悪くなっていると悲観視する人が多いけれど、事実(ファクト)を基に世界を正しく見れば、良い方向に向かっているということが分かるというようなことが書かれている。人は否定的な思考パターンで世界が悪化しているとの思い込みに陥りがちだが実際の世界はそうではないとして、いくつかの例が挙げられている。例えば、「1966年には、トラとジャイアントパンダとクロサイはいずれも絶滅危惧種として指定されていました。この3つのうち、当時よりも絶滅の危機に瀕している動物はいくつでしょう?」というクイズを出して、答えはゼロなんです、絶滅危惧種として心配されていた野生動物でも実際は個数が増えている種もいっぱいあるのだと述べている。しかし、これこそファクトを恣意的に選んでいるのではないか。数億年前には1000年間に生物1種のみが絶滅していたのが、50年程前には1年間に1000種の生物が絶滅してしまう環境になり、現在は年間1万種が絶滅しているという。この数字こそが、私たちが直視しなければいけない事実(ファクト)なのだ。
事実に正面から向き合い、その意味を正しく解釈して、正しい行動を始めるべきときが今なのである。生物多様性の劣化、廃棄物汚染、地球温暖化という重大な地球環境問題を考える際に、その根源は人間によるエネルギー及び資源の大量消費と大量廃棄にあることを認めなければならない。持続性の高い社会を実現する道は、個人の具体的な行動だけである。現代を生きる一人ひとりの責任は重い。